「韓国出張」

「韓国出張」

7月9日(火)

 どうしても韓国に行きたい理由がありました。前回の訪問はコロナが始まる前の2019年6月でした。韓国からはグリーンボンドを輸入しています。グリーンボンドとは澱粉とギルソナイト(説明すると長くなるのでメタン系炭化水素、石炭粉のようなものですが、小物鋳物、特にFC小物鋳物を生産するのに必要なもので、世界的にはアメリカのユタ州とイランでしか採掘されていないものです。)が混合されているものです。今から25年前に私がアメリカに行き、アメリカの多くの工場を見学した折に鋳造工場独特の腐敗臭がしないことに気がつきました。この先、鋳物工場の臭気により働いていただける方がいなくなるのではと不安視していました。つまり私のライフワークである鋳物工場の「臭い」を無くしたいという夢への最初に一歩となったのです。そもそもの腐敗臭の原因が澱粉によるものという実情から澱粉の調査を始めました。すると澱粉が全く異なるものを使用していることに気がついたのです。アメリカの澱粉は産業(工業)用の澱粉を使用していました。日本でも質の高い澱粉はトウモロコシから生産されることが多いのですが、トウモロコシの生産量がアメリカと日本では全く異なります。この澱粉は食品や衣料品にも使用されるために、日本では身体への吸収が良いように徹底的にでんぷん質を高めていきます。一方で工業用はそれほどでんぷん質が高くなくても良いのです。つまりでんぷん質の高い澱粉を精製する途中段階で工業用は製品化されてしまうということです。そのためにコストが安くなり、産業用にはこちらの方が良いのです。こうした品質、用途の違いにより食品、医療用の澱粉は真白であるのに対し、産業用はまだ黄色い部分が多く残っています。水の中に入れてみると真白な澱粉は一気に水に溶け込み白濁するのに対し、産業用澱粉は表面に浮かんでしまい攪拌しても溶け込むことはありません。しかし、水分を含ませて混錬すると澱粉の一粒一粒が水を含み粘性を持ち始めます。澱粉は簡単に言うなればノリの効果を示し、鋳物砂の表面安定度を高めてくれます。澱粉には、こうした表面安定性を高める目的の他に抜型性を高めるということも求めています。産業用澱粉と食品用澱粉では、この抜型性に大きな差が出ます。水の中に溶けてしまい砂全体にコーティングされてしまっているような状態です、時に粘着性が強くなりすぎて鋳型の充填が悪い場所などで縁切れ(型落ち不良)が起きてしまうのです。また粘着性が高すぎて鋳物砂の流動性を低下させることで鋳型の充填性も低くしてしまうこともあります。一方で産業用の澱粉は一粒一粒が砂の中に存在して粘着性を高めています。また完全に除去されていない本来持つ成分は繊維質であること(これが腐敗防止になっており、独特の腐敗臭がしない原因)もあり、抜型する折にクッション材となって鋳型の抜型性も高めてくれます。そして充填性も阻害しません。それだけではありません。私たちは鋳型を生産しているのではありません。鋳物を生産しているのです。造型の次にやってくるのは注湯というプロセスで、鋳型の中に1400℃を超える溶けた鉄を流し込みます。この工程で一気にノリが膨れ上がる。ちょうどご飯を炊くときに白いどろどろの液体が吹き出てきます。(その原理を利用してオブラートは造られています。)こうした原理で鋳型から外に出ようとするガスを鋳型の中に閉じ込めてしまいます。これがガス欠陥の原因、またヒケ、焼き付きの原因になり、酷い時には行き場を無くしたガス圧が高くなりすぎて鋳型が割れてしまうことにもなります。充填性、通期度、表面安定度、抜型性、小物鋳物を造る上で全て非常に重要なものです。大物であれば多少の外観の崩れは溶接などで修正してしまえるのですが、小物は即座に不良になってしまうのです。最初にアメリカでこの産業用澱粉を見つけたときは衝撃的でした。即座に日本に届けたいと思いましたが、日本には食糧管理法なるものが存在し、産業とは言え食料と成り得るものに輸入許可が出なかったのです。そこで思いついたのが従来からアメリカから輸入し使用していたギルソナイトを澱粉と混ぜるという手法でした。それがグリーンボンドです。これでいけると思ったのですが、再び大きな問題が生じてきます。このギルソナイト、新聞紙のインクや特殊な道路の舗装、屋根などのコーティング材料として使用されており、日本の大手商社が独占代理店契約を有しており澱粉と混ぜたからといっても直接輸入する許可をこの商社たちがくれなかったのです。ところがアメリカで探してみますと、大きなギルソナイトのメーカー2社に隠れて、こぢんまりと個人が経営している第3のギルソナイトのメーカーが存在していたのです。いつもギリギリのところで守られています。早速、現地を訪れ代理店契約を結びグリーンボンドが生産出来るようになったのです。このグリーンボンドが誕生したのはバブル経済が崩壊し、日本経済が大きく落ち込んでいった時です。鋳物の生産は物量が流れない中での価格競争が激化し、ピーク時2400t出荷したマツバラも1600tを割り込んでいった時代です。固定費を支えるために、80円/kgで鋳物を売ることもありました。今では付加価値が80円を下回るものすら存在していません。絶対的に赤字を覚悟した中で、このグリーンボンドを活かした砂の改善が大きな効果を出し、2年間で2億円を超えるコスト低減に成功しました。恐らく、この改善がなければマツバラは大きな窮地に陥っていたと思います。

 そのグリーンボンドが大きな問題を抱えるようになってきたのが2010年台に入って来てから、二酸化炭素排出問題が騒がれ始め、トウモロコシがバイオ燃料として使用されるようになりました。これに伴い、トウモロコシが不足という事態に徐々に陥っていきました。また、日本の鋳物の生産量がどんどん減ってきたことで輸入するグリーンボンドの量も減り始めるといった事態も重なり、グリーンボンドを生産してくれていたアメリカの取引先がこの事業からの撤退を決めたのです。実はギルソナイトにも語り切れないほどの効果があるのです。産業用澱粉とギルソナイトを混合した、鋳物づくりの生命線でもあるグリーンボンドの使用が出来なくなることは大きな問題だと考えました。そんな折、韓国には食糧管理法で澱粉を輸入する規制がないことを当社の大きな取引先である高澤産業さんから教えていただき、ギルソナイトと産業用澱粉を韓国で混ぜることを思いつき高澤さんのお取引先の会社が尽力をしていただき、現在の製造工場を紹介いただいたのです。この会社に白羽の矢を立てたのは、この会社自体も澱粉の工場であり、澱粉の扱いには慣れているであろうという予想からでした。その会社を訪問してみますと、なんと韓国にも産業用の澱粉が存在したのです。そしてその品質は全くアメリカと差のないものでした。正に「棚から牡丹餅」とはこうした話だと思いました。澱粉はアメリカからの輸入でなく韓国産を使用しギルソナイトと混合する。そこからお仕事が始まり、現在に至っています。

 上記の説明の通り、グリーンボンドは当社にとってはなくてはならない添加剤です。この添加剤の使用量が現在の不況により大きく減っています。一部外部のお客様にも買っていただいておりますので、こちらへの安定供給も必要ですし、このお客様の購入量も減産の影響で減少しているのです。こうした購入量の減少は値段を上げることでカバーするのも現状では難しいです。

 メディアなどで聞かされる韓国の経済はその出生率(0.6%台)が示すようにあまり良くないのが現状です。大切なお取引先さんがどんな現状なのか、そして大切なグリーンボンドを継続して納入頂けるのか、そのためにもどうしても来ておきたいと考えていました。過去に貯めた大韓航空のマイルが今年の9月で消滅することも大きな要因でした。無料航空券で飛んできました。空港に到着すると、FDAの出雲行きの飛行機が雷雨の影響で欠航になるというアナウンスが流れていました。ルート的には近くを通っていかなければなりません。案の定、使用機材の遅れで出発が20分ほど遅れました。そして出発すると何故遅れたかの理由も直ぐに解りました。飛行機の飛んでいる向きが全く異なります。前線を避けるように四国の南側を通り本州と、九州の間を抜けて韓国に向かう航路が示されています。いつものように琵琶湖の上を通って日本海側から韓国に向かうルートではありません。また韓国に到着して更にその原因が明確になります。韓国も仁川、ソウル周辺が前線の影響で大変な事態となっています。何人もの人が亡くなる大災害です。その近辺を飛ぶことを避けていったということです。

 約1時間遅れて釜山に到着しました。ラッシュ時間にも重なってしまい。ただホテルに来るだけで本日は夜を迎えてしまいました。送っていただく車の中でもたくさんの韓国の現状を聴きました。日本はまだまだ恵まれています。そんな話を明日は綴ってみたいと思います。今日のブログは何故韓国に来たのかという話だけにしておきます。良い出張にしたいです。

社長 松原 史尚

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