11月21日(木)
リーマンショックから脱却は何といっても中国の台頭でした。恐ろしい国家予算を使用して中国のインフラ整備が始まりました。これが後に中国バブルの崩壊へと繋がることになるのですが。当社でも中国向けの建設機械部品の生産がどんどん増えていきました。大平工場(加工工場)は約9割がこの分野となりマツバラの収益性を改善してくれました。加工という分野でも1社依存型を非常に危惧していましたが、結果的にはそこから脱却することは出来ずにいたことが現状の大きな課題を引き起こしてしまいました。話がそちらに流れると本日の主題と異なるのでこの先は少し先の未来に向けての話の中で綴ってみたいと思います。
いずれにしても中国の巨大投資が世界の窮地を救ったことは間違いありません。(作用と反作用でそのツケが今世界経済を不況にしていますが)当社も2010年には前述の建設機械部品が急成長を遂げ、加工付高付加価値製品ということもあり、雇用調整の助成金を活用した経常のみの収益体制から営業利益ベースでも黒字化していきました。そんな折に2つの大きな波が襲ってきます。一つは尖閣問題、中国との尖閣諸島近郊での衝突から日本製品の不買運動が起きます。自動車、家電、当社の主力産業の受注が大きく減少しました。またほぼ同時期にタイの大洪水が起き、同じように自動車、家電と主力産業が落ち込み始めます。そんな時代背景の中で、日本で物を造るリスクを感じるようになった大企業の海外シフト、それに伴う鋳物製品の現地調達という動きが加速していきます。加速度的に減少する受注の中で大きな決断をしました。その当時150円/kg前後であった販売価格を一気に130円レベル、50トンを超えるような超量産品には120円/kgレベルで受注を開始しました。この背景にあったのも「動機善」でした。鋳物の生産が海外にシフトされる。それは単純に鋳物の売り上げが海外に流れるといったことではないのです。例えば材料を調達する会社、例えば鋳物を運搬してくれる会社、例えば鋳物を加工してくれる会社、その梱包の段ボール、ビニール、防錆の油、協力企業さんでは中子会社、バル取り企業さん、もっと言うならばこうした人たちが利用するガソリンスタンド、その途中のコンビニで買うパン、色々考えると大きな社会の循環の中で大変なダメージを社会全体が受けることになるのです。「動機善」、仮に当社が損をしても日本経済全体の「益」に繋がるのであれば攻めよう。そう決断したのです。
一方で平均25円程度のコスト低減をする、超量産品は20%の値引きをして受注するのです。そもそも5%も利益率がない中での鋳物造りで到底実現できることではありません。しかし、どうしても実現する必要があると考え、その動機が善であれば天が味方するものだと確信をしました。その天の味方が現れます。2008年3月重野部長が博士号を取得します。その研究内容は何故当社の鋳物の切削加工性が良いのか。このことは忠康社長の折に米国のアラバマ大との共同研究から始まり、後の山形大、東北大との共同研究で「鋳鉄の黒鉛周辺の切削加工時における腐食速度」が起因し、マツバラの製品の腐食の始まるタイミングが他社のそれと比べて格段に遅いことで酸化鉄が切削刃物を攻撃しないという結果を導き出していました。では、「何故マツバラの鋳物は腐食が起き難いのか」、その研究をしてくれたのが重野君でした。山形大学との共同研究、重野君の努力で黒鉛周辺の微小シリコン群がマツバラの鋳物には多く存在していることが解明され、それは重野君が博士号を取得した発見でもありました。その折には「そうか」で終わっていたのですが、如何にコストを下げるかを考える段階で大きな閃きを得ます。当初、マツバラの切削性の良さは良質なスクラップを厳選して使用することで起きていると信じて割高のスクラップを購入していました。しかし、重野君の説を信じるのであれば、材料よりも溶解システムの中で微小シリコンは発生すると考えられるので、厳選スクラップに大きな意味がないということになります。厳選スクラップは当社の意向(切削性でお客様を喜ばせたい・・動機は善)で自己満足で買っていましたから材料を変えることでの値引きも必要はありません。しかし、厳選スクラップを通常スクラップに替えた値差は10円~15円もありました。それは当初の原材料価格を10%レベル下げることに匹敵しました。まだ20%には届きませんでしたが、固定費を支える意味と残りは生産性で埋めると覚悟して踏み出しました。思うように受注が取れ、会社は一気に高収益体制になりました。動機善なら天が味方する。正にそう感じました。
ただ、良い時は長く続かないものです。2009年8月に民主党政権が終わりを告げ、安倍政権が誕生します。景気は一気に登ることも落ちることもありません、それでもアベノミクスが徐々に浸透し日本経済は活気を見せてきます。こうなると全くこれまでとは異なった課題が存在してきました。好景気の中では原材料費が大きく跳ね上がるのです。受注はとんでもなく増えていきますが、材料の確保が難しい時代となり、大変な調達費用をかけることになりました。そうなると薄利多売の戦略は大きなダメージを受けることになります。操業度は110%を超えるのに大赤字、働けど金にならず、金融機関には厳しい条件を言い渡され、多くの大切な社員さんにも離職されました。ここでの学びは「世には相対が存在する」ということです。この辺りからは明日綴ろうと思います。
おかげさまで今日から元気に出勤しています。未だに咳が止まりませんが、これは副鼻腔炎の後遺症で伝染性のものではありませんから、ご安心ください。しっかりマスクを着用して仕事をします。
社長 松原 史尚