12月26日(月)
操業も終わり年末工事へと入りました。朝、朝礼を済ませ本日からの工事の内容を聞いて確認した後、母校山形大学工学部へとやってきました。
「人を大切にする」それは人間関係でも同じことだと思います。今でも母校とのつながりが強力に続いています。有難いことです。最初は卒業してすぐのころにお客様との間での品質トラブル、その真の原因を追究するためにやってきて先生方にお知恵をお借りしました。そして、当社の製品を切削加工すると何故か他社さんの製品よりも刃具の寿命が長くなる、それは何故か。時のボブスレーの日本チームのテクニカル顧問、摩擦摩耗の権威の方が山形大学におられ、その方との共同研究がスタートから現在に至るまで途切れることなく、母校との共同研究は続いています。その先生は大学時代の担任の先生が紹介してくれました。
研究では鋳鉄の中に存在する黒鉛の周辺から腐食が始まることが判り、当社の製品の腐食速度が非常に遅いのに対し、他社さんの腐食が非常に速いことが判った。同じ条件で進めるために、テストピースを10社以上集めさせていただいた。「当社のは良いのだけれど、貴社のはダメだ」その理由を探すといったとんでもないお願いによく協力していただけたと思います。鋳造業界の人は良い人ばかりです。それも人間関係を大切にしているからだと思います。ともあれ、他社さんの製品は切削加工時に切削水により腐食が始まり、当社の製品ではまだほとんど腐食が始まっていないことが判りました。そして、その状況をしっかり写真で確認することが出来ました。腐食した鉄が研磨剤のようにツールを攻撃していました。良くあれほどの写真が取れたと今でも思います。
何故切削性が良いのか、その原因は掴めました。しかし、それが何故起きるのか。そこからは機械分野でなく、化学分野での研究になり私自身の出身学科である分野との共同研究が始まりました。そのための仮説を立てて、切削性を意識した操業が行われました。その中には非常に価格の高い材料も含まれており、「マツバラの鋳物は良いが高い」と言われるようになりました。しかし、次の研究でその「何故」が判ります。当社の製品は、黒鉛の周りに非常に微小なシリコンが密集している。一方他社さんの製品はそれほど密集していないことがわかり、このシリコンが腐食防止の働きをしていることが判ったのです。その結果はこれまで使わなければならないと思い込んでいた、高価な材料とは実は無関係ということが判明しました。この仮説は鋳造工学会では全否定されますが、当社はその研究結果を信じて大きなコスト低減に成功しました。もちろん切削加工性は落ちていません。この研究の中から最初の工学博士が当社から誕生しました。そして、何故そうした現象が起きるのか溶解条件への研究へと進んでいきました。そのカギは、キュポラ内のCO、CO2のバランスによるところが大きいという理論。この過程で二人目の工学博士が誕生しました。そこから研究は近隣の岐阜大学、富山大学等とも進め、そこから富山大学卒業の三人目の工学博士が誕生しました。この3人目は、現状は富山大学に戻り後進の指導に当たってくれている。だんだん、鋳物の研究をしてくれる大学が減る中で、こうした研究者が誕生することは素晴らしいことだと思います。そして、ここまで来ると研究を国が応援していただけるようになりました、研究費や設備費を補助いただき東京大学とのサポイン事業が現在進行形で進んでいます。
こうした過程で鋳鉄の切削性、溶解技術に関わることは山形大学から外れましたが、別の研究が母校と始まっています。当社は鋳造工場特有のいわゆる「臭い」が非常に少ないことがその特徴の一つにあります。その軌跡は過去のブログにも書きましたが、更に完全無臭への挑戦を目指して母校との共同研究を開始したのです。この研究が開始したのも、母校同窓会の講師として来ておられた先生の基調講演に端を発します。人間関係を大切にし、母校の同窓会役員として取り組んでいたからこそ、こうしたご縁が生まれるのです。ここでも同じような研究テーマとなりました。消臭目的で次亜塩素酸水の活用を模索していたのですが、「次亜塩素酸水は効果はあるが時系列的に失活していく、しかし当社で製造する次亜塩素酸水は寿命が比較的長期に及ぶ。しかも、次亜塩素酸水はpHが中性に戻ると次亜塩素酸の働きが急激に弱まり、次亜塩素酸の低濃度を謳う弱(微)酸性次亜塩素酸水ではほぼ脱臭などの効果は無くなるのに対し、当社の次亜水はpHが中性になっても高い効果を示したままなのです」何故か。それが研究テーマです。そしてついにそのメカニズムの解析に成功し、本年度特許出願に至りました。
今回の訪問の目的は、ここから先どうしていくか。次亜塩素酸水はコロナへの対策等の展開事例から、ほぼ医学会、経済産業省により全否定をされているのが現状です。しかし、新型コロナ対策でなく、しかもPH7中性付近での商品となると、それは次亜塩素酸水というよりもほぼ水に近い、この分野での商品化こそが目指すべき方向性であると確認しました。そして、なんと本年度研究に取り組んでくれた4年生が来年から博士課程前期生となり、研究を継続してくれるという。これは非常に楽しみなテーマです。働く人たちの作業環境を少しでも良くしたい。そのテーマへの追及が大きな付随効果を生みそうです。私は常に思います、「人を大切にする」「人の親切にする」「ありがとうと言われることを心掛ける」この働きは直接目に見えて帰ってくることよりもこうして思いもかけない形で帰ってくることが多いのです。切削性が高くてもお客様が特別に高く買っていただけるわけではありませんでした。しかし、「お客様に喜んでいただけるようにする」こうした行動の結果から多くのテーマが生まれて、多くの人と知り合って、その研究の結果昨今の著しい生産性の向上や品質改善が起こり、結果として収益性が高まっている。何にをするかでなく、何故するのか。それが非常の大切なのであると思います。
母校はすっかり雪景色でしたが、まだまだ米沢の冬はこんなもんではありません。雪灯籠祭りが始まるまでにはもっともっと雪深い米沢になっていることを願って本日のブログとします。
社長 松原 史尚