「ヨーロッパ出張報告」

「ヨーロッパ出張報告」

6月22日(木)

 昨日のブログにも綴りましたが、今日は日本に向けての移動です。この日のブログを利用して今回の出張の総括(報告)をしてみたいと思います。今回の出張で感じたことの多くは、日々のブログの中で綴っていますので、それ以外の所での報告をしてみたいと思います。

・ヨーロッパの雇用制度

 ドイツには専業主婦さんが多く、EUの議長がドイツから出ていたり、メルケル前首相等のイメージもあったりで女性が多く活躍しているイメージであるがそうではないと現地のガイドさんが話されていました。このように移動のバスの中で、多くの日本との違いを聞かせていただきましたが、中でも強く印象に残った点を綴ってみたいと思います。

①病気休みが有給となる。

 (3日までは本人申請で休める、4日以降3か月までは医師の診断書で休める、それ以降は保険が対応する。その保険の多くは企業が入っている。)

 もちろん、バケーションなどに活用できる有給休暇があり20日~30日、企業により差はあるが存在し、病気で休む時と余暇で休む時は全く別という休暇制度が存在する。

 雇用者側からすると大変なことではありますが、法律である以上仕方がありません。従って、製造業などではほとんどの作業が1工程に対し2人で進められることが多くなっています。それに加えて、人を採用するにあたっては、雇用税という税金が雇用主にかけられるために、全ての工程で・省人化・自動化・ロボット化という流れが進むのだと思います。ドイツのモノづくりに対する強さはこうした雇用する費用、福利厚生面で費用が大きいという逆境の条件が造り上げるものかもしれません。

②突然の工場見学キャンセルが発生

 上記①で示した、働き方の制度が影響しているのだと思います。金曜日の時点で予定していた月曜日の工場見学がキャンセルになりました。他にいける見学先はないかと模索しましたが、金曜日に対する月曜日で見学先を見つけることは出来ず、月曜日が空くことになりました。しかし、参加いただいている皆さんに対して、学びの場を提供する必要があります。そこで、GIFA(展示会)での、気づき、学びを皆で共有するという勉強会の開催を企画しました。先週の木曜日、金曜日のブログでも綴りましたが、会場が大変に大きく、7時間近く懸命に歩き回ってやっと見学できるほどです。その中で、一つ一つのブースに立ち寄り、内容を聞き理解していくといったことは、体力的にも物理的にも無理な話であり、参加者一人ひとりの学びを共有する機会は非常に有意義な時間となったと思います。一人ひとりの参加者は帰国してしまえば皆再び集うことは不可能といえます。従って、参加期間中にこうした学びの交流会の実施は非常に効果的であったと思います。また、一人ひとりの皆さんはそれぞれの企業に対して出張報告を出さなければなりません。そうした中でも、こうした学びの交流会は非常に効果的であったと思いますし、一人当たり100万円を超える研修費を拠出していただく企業にもしっかり費用対効果が出せる出張になると感じました。実際、参加者の多くの皆さんからこの勉強会に対する好評をいただきました。派遣団団長としての提言として、次回以降は計画的にこうした時間をスケジュールの中に組み込むことが必要だと感じました。私自身も本当に多くを学ぶことが出来ました。その多くは、私自身の目には全く止まらなかった、しかし別の参加者の皆さんの学びの共有によって学べたことでした。本当に素晴らしい機会になりました。

 さて、その勉強会の紹介です。

③勉強会の開催

第1セッション(メイン講演会)

・新東工業様GIFA展示コンセプト(内容)の説明会

 GIFAはヨーロッパでの開催です。前述しました、雇用制度、税金制度に対応するための省人化、そしてカーボンニュートラルに向けた環境への配慮が製造業にとっての最大の課題であり、全ての展示企業がこうした課題を解決する商品、仕組み(ソフト)を提供しており、その代表として新東さんの展示コンセプトを理解することがGIFA全体としてのコンセプト、また、この先の製造業に求められる方向性の理解につながると考え、金曜日の時点で、この研修会でのキーノートスピーチとして新東さんにお願いをさせていただきました。

テーマ

SINTO スマートファンドリー

Good Casting System

 こんなこともあります。朝5時に目が覚め、頭もさえているので可能な限りブログを綴り、そして食事に向かいました。時刻は7時半、そして食事をして8時半頃から再びブログを綴り始めました。出発の少し前の10時まで、ほぼ完成し、最後の誤字脱字のチェックをするまでになっていたのですが、搭乗してパソコンを開いたらこれ以降の綴ったブログが完全に消えてしまっています。古いパソコンではよくあったことですが、書き直しです。上手くかけていたのに。朝は比較的頭が良くさえるのですが午後は今一つになるので、判断業務は午前中、午後からはルーティーン作業というのがいつも私の仕事の進め方なのですが本当に悲しい限りです。

とうことで、書き直しです。

テーマ

SINTO スマートファンドリー

Good Casting System

1)安全 2)省エネ 3)レス産業廃棄物 

4)安定操業 (生産・品質)5)メンテナンス

 この5点で万全な体制を創り上げていくことがスマートファウンドリーの目指すべき姿です。

 この5店すべての分野で

・自工程完結

 不良、異常を次工程に流していかない仕組み造り。造型であれば型落ちなどの異常をモニターで監視する、鋳型硬度、温度などの測定、ガス抜き穴の設置作業などを、モニタリング(スマート監視システム)や、計測値を同じくモニター監視できます。自動注湯であれば、全モールド温度測定と記録、鋳型に識別マークなどを刻印することでトレースも出来ます。砂処理では、砂のデータのインライン計測の実施。異常監視とデータ収集が出来るシステムが組み込まれています。

・データ収集

 自工程完結で収集したデータを収集し、実際の不具合(不良)との発生因果関係を見つけていく。

・フィードバック

 不良発生のデータを不良内容、発生個所ごとに登録していき、各工程での管理パラメータ値(規格)も見出していく。他の良品率の高い製品と比較もすることで、方案、型設計の見直しへ進む道も判断できる。

 このように、自工程完結(後工程に不具合を送らない)・データ収集・フィードバックの仕組みを循環させることで、時系列的に上記1)~5)全ての分野でGood Casting System を構築していく。

リモートモニタリング

設備異常を早期発見するリモートモニタリングシステムの紹介。

・過電流・発熱・過振動、設備の異常となるデータを収集し、設備異常を早期に発見し、設備が停止する前に、部品交換、メンテナンスの必要性を知らせる仕組み。価格も、高いものではなく、手ごろな価格で入手できる。上記Good Casting System に加え、こうした設備の異常管理全ての分野で活かせるアラートシステムを提供、現場での直接作業者は極限まで減らし、アラート管理者が確実に異常を見つけ出すことで、1)安全)~5)メンテナンス、全ての分野でGood Casting Systemの好循環化を目指していくことができる。

(質疑応答から)

・スマートシステムには自動学習機能はついてはいない、現状では管理値、異常の定義などは人の判断による

・DISAでは自動学習機能が付いたものがあるとGIFAの展示ブースでは話されていた。最も不具合品が出なかった造型条件が導き出される仕組みで、多くの鋳造工場が協力してデータの収集をしているらしいが、砂・溶湯、条件に差が出てくるため、最適条件は各社で異なるのではという発想もあった。

・アイリッヒの砂処理はバラつきを無くすために、回収砂ラインでの砂分析の精度を高めていく。また、水分値を5%程度まで高めて、その後真空状態で気化させることで、水分値を常に3%で安定させ、同時に砂温も下げる仕組みが紹介されていたが、必要とされる、ベントナイト、石炭粉、澱粉の必要の有無とその量の管理も鋳造条件、材質、製品構成により全く異なるので、結果としてこうしたパラメータ管理は人に頼るところが多くなる。

・スマート監視システムで造型の1枠からの異常発見は出来るか、またその場合に造型機を停止させられるか。異常型に注湯させない仕組みはあるか。(質問)こうした仕組みは、現状ではない。やはりここでも人に頼ることが多くなるが、異常をモニターで監視することで、大量不良が発生する可能性は止められる。

 時間の都合上これ以降の質問は各自で新東さんにしてもらうこととした。

第2セッション

各参加者の学びのポイントの発表

 先ずは、私から先週木曜日、金曜日でブログに綴ったGIFAでの学びについて改めて話をさせていただきました。驚いたことに、既に私のブログを呼んでいただける方もおられました。有難いことです。

 各自の学びのポイントについて話していただけました。

・カーボンニュートラルに向けてインド企業のブースでも木材バイオマスを加炭材として紹介されていた。

・人口砂を活用し熱ではなく、マイクロウェーブを活用して短時間で中子を完成させることが出来ている。15分程度で完成していた。

・無機材料活用の3D技術であったが、その強度も増していること、3~4日程度の保存期間は十分に保てるために、試作や小ロット品の中子作成に使用することで高付加価値な中子ビジネスになる可能性もある。

・発熱スリーブの技術が上がっている。カーボンニュートラルの時代に歩留まり向上に活かせる

・SDGsへの貢献を謳う企業がブース内で全く見られなかったのは意外であった。

・バリ取り、仕上げ工程でのロボット技術が著しく伸びている。この先、外国人実習生の確保すら困難になる時代がくるので、人からロボットへのシフトは必ず必要になる。

・安全性の視点からもマニュピレーター技術の進歩が見られて期待したい

・有機樹脂の企業の出店も7社確認できたが、技術面での大きな進歩は見られなかった。植物由来の樹脂の紹介もあったが、産業レベルで完成しているかは疑問が残った

・クーリングドラムによる打コンが現状課題になっている、バイブレーション型のバラシ技術が進化しており、導入を検討してみたい

・中国の鋳物の展示が目立った、何故にGIFAに出店しているのかと尋ねると、中国国内の景気が非常に悪く、新たな販売先を求めて出展しているが大きな成果にはつながっていないとの話で合った。

・コールドボックス造型機の作業性が著しく向上していた

・築炉(電気炉)の自動化システムを紹介する企業があった(仕上げを人間がする程度で良い)

・インドブースの出展が多かったので、日本で販売できるものはないかと中心に回ってみたが品質面で疑問がある企業が多かった。

・EUのサプライチェーンの崩壊

 ドイツでは国の方針(命令)として、ロシア企業からの調達を停止させました。それは、自社のロシア工場など含めて全てのロシア企業からの調達を停止させたとのことです。加えて、コロナ禍における中国企業供給不安を二度と起こさせないために、EU内での調達を進める方針で動いています。やはりウクライナ紛争の影響は大きく響いています。そのため、鉄鋼や鋳物分野ではトルコへのシフトが加速しており、今回の展示でも鋳物工場はじめ、様々な関連分野でのトルコ企業の進出が目立ちました。また、従来、鋳造分野ではイタリアは元々力のある場所であり、イタリアの復活も感じられました。イタリアの事例のように、ウクライナ紛争、コロナ禍の影響を受けて躍進する企業(産業)、反面沈む企業(産業)もありに大きな差が出ていることがGIFAの展示、また新東さんのモノの流れ、ガイドさんの説明から感じ取れました。現状、ヨーロッパのサプライチェーンが完全に回復していません、ウクライナ紛争の影響を大きく受けています。しかし、イタリア、トルコにおける鋳造業界の復権が遠くない未来に再び元気なヨーロッパをけん引してくれるはずです。

・カーボンニュートラルへの考え方

・オール電化への取り組み

 脱原発は進め、太陽光、風力(洋上風力)と謳ったものの、現実的にはこうした再生可能エネルギーによる発電は全体の10%以下(ガイドさん情報)であり、石炭火力に頼るところが大きい。また、自動車化もオール電化を宣言したが、昨今人口石油を使用することを前提に内燃機の維持を認めた。こうした人口石油の開発はまだ先になるが、当面ハイブリッドの使用も継続されていくことで電力の消費は抑えていく方向。

・木材(薪ストーブ)の活用

 ドイツではウクライナ紛争を受けて、昨年家庭の電気代が年間25万円程度から80万円レベルに暴騰した、この値段は使用しても、使用しなくても関係なく、基本料金として値上がりしたわけであるが(しかも年間で前払い)、国民からの不満が極めて高く、政府の支持率の大きな低下にもつながり、最近は使用電力に応じて返金が受けられるようになったとのこと。そこで見直されたのが薪ストーブ、ドイツでは夏場は涼しくエアコンがなければ過ごせないといったほどではなく、冬場の暖を薪で取る家が急速に増えたという。逆説では、意図的に暴騰させ、薪文化の再構築を図った可能性はゼロではないと思う。

・企業の電気代

 どの企業からも正確な数字を聞くことが出来ませんでしたが、家庭電力の暴騰に対して企業電力は2倍にもならない程度の値上げであったというのはガイドさん情報、新東さんを通じて質問がしているので、その回答結果を待ちたいと考えます。

・リサイクルの考え方

鋳造業は、発生材料は例えば自動車や家電などを生産する過程で出てくる材料からのリサイクル材料という考え方で切削屑を含めて、銑鉄以外の材料からの二酸化炭素排出量はゼロという考え方。ヨーロッパでは、生産プロセスだけでなく、原材料生産にかかるCO2排出量も自社の製品の排出量として加算されるが、鋳造プロセスの原材料はゼロとカウントされる。従って、客先からのスクラップ(鉄源)の受け入れ(有価)も一般的である。

・マテリアルマイレージという考え方

 原材料が鋳物、加工、塗装、組み立てと企業間を移動するたびにCO2が発生するために、1社完結型のモノづくり、鋳物工場が組立、完成品としてモノづくりを完結させていく動きが加速している。もちろん、M&A等で鋳物工場を傘下に入れるケースもゼロではないが、鋳物工場が加工、塗装、組み立てと拡げていくケースが多く、客先もこうした流れを後押しする動きが加速している。これにより、CO2の排出量を大きく下げることが出来ると同時に、ゼロエミッション、全ての材料を社内リサイクルするシステムも構築でき、こうした動きへの支援が企業イメージを良くするとの考え方もあるようだ。後に、参加者の皆さんから教えていただいたが、トルコ製、イタリア製で加工の切削切粉をブリケット化する機械が3社から展示されていたとのことです。私は気づかなかったのですが、こうした機械がGIFAで展示されるほどこうした流れが加速しているのだと思います。また、私が鋳物工場で確認したブリケットは表面が溶融されるており、全く切削油の存在は感じられませんでした。15センチ程度に成形されたブリケットは高強度であり一つとして破損しているものも無く、固められた物体は一見、コークスに見えたほどでした。電気炉での使用も出来のではと感じるほどの完成度に見えました。

・林業の活躍

 高速道路が通行止めであったり、迂回した道路が再び通行止めであったりとどんどん迂回させられていく中で、山道に入り込むケースがありました。山の中では林業が盛んであり、どんどん森林が伐採されていました。もちろん、伐採された山肌には新たな植林が進んでいました、以前に林野庁の職員さんにお聞きしたことがあります。敗戦後、ドイツは先ず林道を山の中に設置し、その上で植林を行っていった半面、日本は植えられる限りの木を植えたに過ぎない。その背景として、人口は増加していくものという甘い目測(判断ミス)、林業従事者が減少していくといった未来予想図が全くなかったことによると聞いたことがあります。ドイツでは、聞いた通りの光景を見ることが出来ました、伐採された山肌にはしっかりと林道が確認できました。また多くの伐採用の重機が林道を走る姿も確認できました。クリスマスに使用するもみの木にも需要があり、もみの木畑もたくさん確認できました。林業に従事する皆さんの街も複数ありました。また、山肌に風力発電の機械が設置されているところも多く見えました。林業に加えて、二酸化炭素の排出権取引、更には風力発電と一石三鳥と思えるような光景を目の前で見ることが出来ました。

・森林の活用

 前回紹介した水素溶解のSMSグループのブースで、「溶解のエネルギーとして水素は理解できるが、カーボンニュートラルを目指す上で、加炭と脱酸、更には強度確保のための合金添加をどのように進めるのか」と尋ねたところ、「植樹とリサイクル、水素自体にも脱酸効果はある」との返答でした。もう少し詳しく聞くと、リサイクル材料には必要な合金を多く含んでいるものがあり、こうした材料の成分をしっかり分析して再利用する。また、木材を利用することで加炭と還元を進めるとの話でしたが、現状では木材は加炭材としては理解できても還元が出来るほどの量の確保は現実的ではない気がします。水素自体の還元もどう進めるのか理解できませんでしたが、森林の活用をしていく方向性としては、木材の加炭材利用に加えてCO2の排出権取引も検討されているのではと想像できました。いずれにしても、ドイツのモノづくり、また生活スタイルの中での森林の活用、木材の活用がこの先重要視されていることは間違いないと感じました。

 今回のGIFAの見学、そして工場見学の中で、エネルギー、資源(原材料)の継続的な高騰に対応し、その上で環境配慮も同時に進めるための生産性の向上を目指していくこと。そしてカーボンニュートラルに向けた環境への新しいスタンダードへの対応。重筋労働をする人は消え去り、鋳物工場で働いてもらえる人たちが年々減少していく中での省人化への対応、そして作業環境改善に向けた取り組みを通して働く人に選ばれる産業になっていくこと。こうした取り組みを実現させていくために、鋳造業を営む企業が確固たる収益を上げて、その産業の中に存在する全ての人たちがやりがいを感じていけることが大切であると感じました。未来に向けて日本鋳造業の進むべき方向性を感じ取ることが出来たと思います。一方で、カーボンニュートラルへの明確なスタンダードは出来上がっていません。今回、見学することが出来た工場の全てが2030年までにキュポラを止めて、電気炉に変えると話されていましたが、一方で国の明確な方針が示されておらず、このままキュポラでの操業を続ける選択肢も持っている。電気代の異常な高止まり、インフレによる諸物価の高騰は設備費にも直撃しており、簡単に出来ることでもないとも話されていました。その中でも1社完結型の生産システムを支援しながら鋳物工場の未来を支援する産業の在り方は、鋳物工場の重要性を理解しているからだと思います。この先も、持続可能な鋳造業の在り方がヨーロッパ内で模索され、ドイツ、トルコ、イタリアといった国から発信されてくるでしょう。繰り返しになりますが、目の前に出来ることは、生産性の向上、省力化、その結果もたらされる二酸化炭素排出量の削減への取り組みと、その取り組みを進めるための付加価値の確保を進めながら、鋳造業界に関わる全ての人たちが未来に希望が持てる産業にしていくことだと感じました。

 長文にお付き合い、ありがとうございました。

 本当に学び多き出張となりました。

 送り出してくれた社員さん、今回多くの学びをくれた各参加者の皆様、ブースを出展いただき学びの機会を頂けた各企業の皆様、全ての関係者様に、心から感謝いたします。

社長 松原 史尚

社長ブログカテゴリの最新記事